「なんかダメな日」は突然に

「本日は20時からR.O.Xのリハがある。」少なくとも自分はそう思っていた。

20時から開始ということは、遅くとも自宅を19時半には発たなければならない。それまでに晩ご飯を済ませておきたいところである。空腹でリハに臨もうものなら、また「パワーが足りない」と罵られることは間違いない。

ブログ記事を書きながらPCの隅に目をやると「18時半」。時間が無い。書きかけの記事を保存し、レトルト具材を使用したカニ玉を焼きつつ、冷凍ご飯を電子レンジにて解凍する。カニ玉定食が完成。食べる。悪くない味だ。

そして出発の時間がやってきた。

誰も居ない

20時少し前にスタジオに到着。

いつもならメンバーの数人がタバコを吹かしながら談笑している時間であるが、今日はどういうことか誰も居ない。

妙だな、という単語が脳内に発生する前に「今日はスタジオAが取れなかったのでスタジオBを取りました」という事実を思い出した。

つまり誰も居ない状態が正である。

メンバーに「スタジオ間違えたサーセン」くらいの適当な謝罪文を送りつけ、スタジオBに向かって足早に歩く。幸いなことに、スタジオBはスタジオAから目と鼻の先にある。

誰も居ない

5分程歩いてスタジオBに到着。

ロビーにメンバーは見当たらないが、既に20時を回っているのでスタジオ内に入って準備をしているのだろう。店員のあんちゃんに「我々のスタジオは何番か?」と尋ねると、番号の代わりに「21時からですね~。」という回答が得られた。

会話が噛み合っていないが、その非がこちらにあることは明らかだ。

つまり誰も居ない状態が正である。

メンバーに「時間間違えちゃったテヘ」くらいのドジっ子アピールを叩きつけ、最寄りの喫茶店へと向かう。220円の小ぶりなアイスコーヒーを注文し、消費ペースの配分を熟慮しながら小一時間を潰すことにした。

三度目と私の正直

21時前、再度スタジオBに到着。

ロビーではリーダーとガラの悪い男性が談笑していた。

一体誰だろうか。もし、彼とすれ違いざまに体の一部をぶつけようものなら、彼の骨は折れ、それと引き換えに私の資産は減る。そのような危険なオーラを臭わせている。何者なのか慎重に見極めなければなるまい。

見極めてみたら何のことはなく、弊バンドのギタリストだった。

「髪を切ったら随分爽やかになりましたね^^」

このように世辞の一つでも言えればフリーランスなどやらずに会社社会に順応出来ていたことだろう。実のところ彼は以前にも増して爽やかになっており、つまりこれは世辞というよりは方便であるが、どちらも上手く使いこなせないことに変わりない。

「ガラ悪いwww」

と正直に申し伝えてみたが、私の資産は減らなかった。良かった。

蜻蛉帰り

ガラが悪い件や私の失態を俎上に上げていると、リーダーが私に質問を投げかける。

「今日は手ぶらっすか?」

「いい質問だ。リハの為だけの外出であれば、交通費と飲み代とスティックと念のための通信手段さえ持っていれば事足りる。手ぶらに見えるのも無理は無い。」

と回答を試みた矢先、椅子の背凭れにぶら下がったスティック入れの存在が脳裏を過ぎり、口からは「わすれものした!」と素っ頓狂な声を出した挙句に喫茶店へと歩き出していた。

ようやく「今日はダメな日なのではないか?」という疑惑が浮上する。

徒歩回避失敗

ダメな日の割にはリハーサルを卒なくこなし、懇親会も終電に間に合うように抜けだした。ダラダラ飲んでいると、6kmの行程を徒歩にて帰宅する羽目になる。散歩するのに最適な季節ではあるが、散歩は強いられてするものではない。

金曜の深夜らしく、薄緑色の電車が到着するホームは人で溢れていた。

待たされること無く電車は到着したが、言うまでもなく満員であり、列の最後方に並でいる私が乗れるのか疑わしい。車内に向かって押し競饅頭をしながら納まっていく人々。私が扉の前に到達した頃には、無慈悲に人々を押しこめば乗れるかもしれない可能性が残されていたが、どうやら次の電車でも帰宅出来る様子だったので無理はしないことにした。

そしてこの判断は失敗だった。

次の電車は遅れに遅れて40分以上待たされた。乗り込んでみたらそこは吐瀉物の臭いが充満する空間だった。耐え難きを耐えながら乗り継ぎ駅に到着し、大変空いているオレンジの電車に乗り変えてホッとしていたら、遅れに遅れている他の電車の接続を待つと我儘を言い出し、オレンジは頑なに動こうとしない。

仕方なく、そこから歩いて帰宅した。徒歩を回避したつもりがいつの間にか歩いていた。良く分からない因果だ。

水に流す

帰宅して一息つくと、何処からか吐瀉物の臭いが漂う。

件の車内にて伝播したのだろうか?車内では足元は疎か周囲の人間の状態も把握した上で発生源は近くに無いと断定したのだが、その判断は誤りだったのだろうか?

あるいは、気づいていないだけで臭いの発生源は自分なのだろうか?安い肉とビールを押し込んだ胃からそのような臭いが立ち上ったとしても不思議ではない。

それとも、単なる臭いの記憶なのだろうか?

疑念は尽きないが、面倒なので臭いと疲れとダメをまとめてシャワーで洗い流し、一日を終えることにした。

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